2016年11月4日(インド、ニューデリー)
アジア防災センターが設立当初から構成団体を務める国際復興支援プラットフォーム(IRP)は、第7回アジア防災閣僚級会合(2016年11月3~5日、インド・ニューデリー)でテーマ別セッションを開催しました。このセッションは「Build Back Betterへ向けた戦略と行動」と題して、11月4日午後1時~2時30分にビギャン・バワン会議場6番ホールにて、6名のハイレベル・スピーカーがそれぞれの経験と教訓について共有し、(i) 政策と戦略、(ii) 制度的な調整、(iii) 資金調達メカニズム、(iv) 実施上の調整と復興管理の4つのBuild Back Betterに関連する主要な要素の視点から発表が行われました。セッションには約150名が参加し、各スピーカーは、ガヴァナンス、ジェンダー、事前的投資、社会的包括、持続可能な開発の分野にわたって発表しました。
ウォンテー・アータカイワーワティー閣下、ASEAN (東南アジア諸国連合)事務総局次長は、「災害管理と緊急対応に関するASEAN合意(AADMER)」の復興に関する部分に基づいて、Build Back Betterへ向けた地域政策を推進していることを報告しました。この地域政策には、評価、復興計画策定、資源利用、調整、復興計画から開発計画への移行に関する手続と履行期限を定められていて、ASEAN加盟国はそれに沿った対応が求められています。AADMERの制定によって、ASEAN加盟国は復興時期のハードとソフトの対策をより安全なものへと改善しつつあります。その他の特徴的な地域的取組としては、サイクロン・ナルギスからのミャンマーにおける復興過程で「三者間コア・グループ(Tripartite Core Group)」に基づく協調関係や「復興ツールボックス(Recovery Toolbox)」、「災害復興ガイド(Disaster Recovery Guide)」などの手引書の開発が挙げられます。
スシル・ゲイバリー氏、ネパール政府復興庁の最高執行責任者は、「災害復興フレームワーク2016-2020」の主要な取組について発表しました。政策の観点からは、政治的利益の調整、地域社会の要望、Build Back Better原則の遵守、そして、これまでの人的資源を活かしながらも新たな視点により設立された復興庁の運営などが挙げられます。制度的な調整の観点からは、制度構築に対する軋轢への対処や、国際機関の専門家の人的支援によって政府の政策能力を補完する取組が紹介されました。また、資金調達メカニズムの観点からは、国際的な責務、資金調達、そして現実的な復興計画と実行を確実にしていったこと、また、復興管理の観点からは、地方政府を中心とした復興調整及び実行の堅固なメカニズムを構築したことや、地域社会優先の取組などが挙げられました。
オーステア・パナデロ氏、フィリピン政府内務・自治省次官は、災害対策や復興の取組において現実的な課題への対応に役立つ先進的な取組を発表しました。政策の観点からは、土地利用計画は、全ての計画の根本であり、地方政府と地域社会レベルのBuild Back Betterの基盤となること、さらに、企画計画予算制度や、災害リスク軽減及び気候変動適応の情報を活用したプロジェクト開発・評価の基準を通して、"災害に強い"公共投資政策が提唱されていることなどに言及しました。制度的な調整の観点からは、バランガイレベル(村レベル)の災害リスク軽減及び気候変動適応の基本的情報は地域において生み出されるとともに、世帯レベルにまで及ぶ能力強化活動を通して、地域社会は強化されていることを指摘しました。資金調達メカニズムの観点からは、Climate Change Expenditure Tagging (CCET)や防災準備監査による「良い地方統治」認証(the Seal of Good Local Governance)が導入されました。最後に、復興管理の観点からは、ビサヤ諸島における台風ハイエンの経験を活かした地方開発計画の円滑な運用や、フィリピン政府の国家災害リスク軽減管理評議会-市民防衛局のもとで"政府一丸となった"アプローチは、復興調整及び実行としての取組の中でも代表的な事例となります。
ヴィノード・メノン教授、カリタス・インディア(Caritas India)上級顧問は、「地域社会重視」の政策が重要であると指摘しました。Build Back Betterのための「地域社会を重視した危機管理」フレームワークを紹介し、社会的弱者や社会から取り残されたグループに特別な注意を払った「社会的包括」の復興を強調しました。そのフレームワークは、現実の政策課題に対処する解決策の一つとして提示され、(i) 災害リスク軽減、気候変動適応、持続可能な開発目標に関連した政策の一貫性及び収斂性、(ii) 全ての復興戦略の特質としての社会的弱者層の包括性、(iii) 民族紛争、社会的脆弱層に対する残虐行為、暴力的・複合的緊急事態に影響を受けた地域社会のレジリエンス構築に対する支援、三つの点を助けるものです。
アチュート・ルイテル氏、実践的行為ネパール(Practical Action Nepal)理事長は、2016年南アジア災害報告書を紹介し、ネパールにおけるBuild Back Betterへ向けた12の提案の概要を説明しました。それは、(1) 複層的かつマルチステークホルダーの政策方針の促進、(2) 政策、立法、規制文書の調和と標準化、(3) 段階的な計画・実行の廃止に向けた制度的限界線の設定、(4) 災害リスク軽減への対処による開発介入に対する制度上の責任、(5) 脆弱性が内包するさらなる脆弱性への重視、(6) 政策決定者としての女性の能力とポテンシャルの活用、(7) 所有者自らによる持ち家復興、(8) 子供達のための学校の安全性の向上、(9) 地方レベルの解決策の構築、(10) 現金移転からリスク移転への移行、(11) 零細企業の再建、(12) レジリエンスに向けた災害リスク情報を活用した開発の構築、の12の点です。
シェイラ・シャイード氏、ジェンダーと水連合バングラデシュ(Gender and Water Alliance Bangladesh)チームリーダーは、二つの政策行動を提案しました。(i) 社会的包括の促進と社会的意識の向上、バングラデシュの事例では、災害管理評議会、地方政府、ボランティア活動への女性参加と、経営体への女性の代表の参画のような行動、(ii) ジェンダー理解、男女間の社会的関係性の認識、そして、これらの関係性を社会的に構築し、女性に対してリーダーの役割を奨励することです。
以上の発表を受けた活発な議論の後、IRP運営委員会議長であり、このセッションの議長を務めたステファン・コーラー氏(UNOPSプログラム部門長)は、以下の3つの観点からセッション全体について総括しました。
① 復興フェーズは、Build Back Betterの機会であり、脆弱性を低減し、開発がより持続可能なものとなる点において重要であり、社会的弱者層と社会から取り残された層を包括することが出来れば、さらに成功したものとなるであろうこと
② 事前的投資は、Build Back Betterへ向けた重要な要素であり、開発の持続性を確実なものとすることができること(例えば、災害リスク情報を活用した土地利用計画)
③ ジェンダー、社会的に取り残された層に関して、社会意識、知識、能力開発を向上させることは、復旧・復興過程におけるBuild Back Betterに向けた効果的な準備を促す点において非常に重要であること
最後に、復興過程におけるBuild Back Betterは大規模な制度的、技術的な取組であり、全てのステークホルダー-政府、市民社会(civil society)、プライベートセクター-が協力して共に取り組むことを必要としており、それは、フィリピンにおける"政府一丸となった"アプローチに例えられというメッセージでセッションを締めくくりました。
(2016/11/04 14:40)