7 アジア地域における防災教育・訓練に関する課題の把握

7−1 課題把握の方針

防災教育訓練について、アジア諸国でのこれらの課題に対するニーズの把握を行うとともに、各国が行っている防災教育訓練のためのプログラムや教材等の資料収集を行う。それらの結果をデータベースとして作成して、アジア防災センターのホームページを通じて、それらの情報の共有化を図る。

またアジア防災センターにおいても、防災教育・訓練を様々な方式で実施する。

7−2 ニーズの把握の方法

アジア諸国における防災専門家のための防災教育及び訓練は、それぞれの国の中央省庁に限らず、地方自治体災害対策のためにも重要な課題である。アジア各国においてはどのような教育訓練を各国の防災担当部局は求めているのか、またどのような教育訓練のためのプログラムが提供されているのかを、Country ReportExpert MeetingCounterpartとの面談また防災の文献等により把握した

上記の方法により把握したニーズとしては、次のようなことが挙げられた。

    1. 人材開発における地域協力(インド)
    2. 緊急救援捜索活動における人材の育成(マレーシア)
    3. リスクアセスメント、分析、災害救援コミュニケーション、災害軽減分析に関する人材の育成(モンゴル)
    4. 災害軽減、早期警報、緊急援助及び軽減、復旧、復興に関する研修の強化(ネパール)
    5. 防災技術に関する研修の強化(フィリピン)

 

7−3 防災教育・訓練に関する資料の収集

1998年度においては、防災教育・訓練プログラムに関する資料の収集を行った。防災教育訓練プログラムに関する情報として本年度に収集した資料は、世界各国において実施されている防災教育訓練プログラム(防災研修コース)について悉皆調査を実施した。国際連合等の国際機関、国際的な防災機関、各国政府への問い合わせを行い、それぞれが実施している研修コースについての情報を得た。またそれらで用いられている研修テキストの収集については主に1999年度において行うこととしている。収集された防災研修コースについて以下に示している。これらはデータベースとしてアジア防災センターのホームページにおいて一般に提供する。研修コースの一覧表を表7-3-1に、また例示として研修コースのデータベースの一例を表7-3-2に示す。

7-3-1 研修コースの一覧表(抜粋)

組織名

略称

研修コース(1コースのみを表示)

Asian Disaster Preparedness Center

ADPC

First Regional Training Course on "Urban Flood Hazard Mitigation

Australian Emergency Management Institute

AEMI

Vulnerability Assessment

Canadian Center for Emergency Preparedness

CCEP

World Conference on Disaster Management

Cranfield Disaster Management Centre

CDMC

Disaster Management Training for the International Decade for Natural Disaster Reduction

Canadian Emergency Preparedness College

CEPC

Basic Emergency Preparedness

Crisis Management and Preparedness Organization

CMPO

Emergency Operations Center Simulation Training

Center of Excellence in Disaster Management & Humanitarian Assistance

COE

Combined Humanitarian Assistance Response Training

California Specialized Training Institute

CSTI

Emergency Management

Emergency Measures Organization Nova Scotia

EMONS

Basic Emergency Preparedness

Harvard School of Public Health

HSPH

Planning for Nuclear Emergencies

Indiana Public Safety Training Institute

IPSTI

International Institute for Aerospace Surveys and Earth Science

ITC

 

Professional Master & Master of Science courses Application of Geoinformation to Natural hazard Studies 1999-2000

Chiba Earthquake Countermeasure Section

J101

Training for leaders of voluntary disaster prevention organizations

TMG Disaster Prevention Center

J102

Disaster Prevention Citizens' University

Tokyo Red Cross

J103

First Aid Disaster Relief Seminar

Metropolitan Fire Department

J104

Volunteer for disaster support

Disaster Relief Volunteer Activity Promotion Committee

J105

Safety Leader

Gifu Fire Fighting and Disaster Prevention Section

J107

Gifu Disaster Prevention Intensive Seminar

Shizuoka Prefectural Government

J108

Comprehensive Disaster Prevention Course

Hiroshima Disaster Prevention Center

J109

Miyazaki Fire Fighting and Disaster Prevention Section

J110

Citizens' Disaster Prevention Course

Massachusetts Emergency Management Agency

MEMA

Advanced Operations Course

New Zealand National Civil Defence School

NZNCDS

Emergency Planning

Victoria State Emergency Service

VICSES

Emergency Management Planning

7-3-2  研修コースデータベースの一例

 

 

7−4 アジア防災センターにおける防災教育・訓練の実施・支援

アジア防災センターにおいては、防災教育・訓練プログラムの開発及び研修プログラムの企画等を将来において実施することとしているが、1998年度においても、実体的にはいくつかの教育・訓練プログラムを実施、あるいは支援してきたところである。

一例としては、兵庫県が受け入れている兵庫県海外技術研修員(中国海南省地震局副局長沈氏)を、1ヶ月にわたり当センターに受け入れ、インターネットによる防災情報提供に関する防災研修を実施した。同氏は、中国帰国後、インターネットを通じたアジア防災センターと中国との防災情報ネットワークの構築に寄与するものと期待される。

また表7-4-1、表7-4-2に示すように、関連機関が行う教育訓練・研修プログラムを支援し、アジア防災センターにおいて一日、半日の短期プログラムを実施した。対象は地方自治体の防災職員、消防職員、海外の防災専門家、マスコミ等多岐にわたるが、国際防災協力、日本における防災対策の現状、防災情報ネットワーク等に関する研修を行った。

 

表7-4-1 短期防災研修(外国人)

 

日 時

 

 

場 所

 

 

国 名

 

 

主な出席者・出席人数

 

 

内 容

 

98/10/13

ADRC

ボツワナ、エチオピア、ガーナ、ケニア、ナイジェリア、南アフリカ、タンザニア、ザンビア

フォーリンプレスセンター

アフリカ英語圏記者研修

参加者一行8名

国際防災の10年、世界の自然災害数・損害額、阪神・淡路大震災、国際防災協力、ADRC活動概要他

 

98/11/18

同上

中国、インドネシア、メキシコ、オマーン、フィリピン、サウジアラビア、スリランカ、タイ

JICA集団研修・救難

防災コース研修員一行11名

 

98/11/19

同上

中国

 

中国科学技術協会

地域開発計画

訪日視察団一行13名

98/12/16

同上

中国

海南省情報・防災視察団一行11名

98/12/16

同上

中国

中国都市地震防災考察団

一行8名

99/02/12

 

同上

中国

中国建設部・日本の地下空間開発考察団一行10名

99/02/19

 

同上

バングラデシュ、クック諸島、インドネシア、ヨルダン、レソト、マレーシア、メキシコ、ネパール、パキスタン、ペルー、ソロモン諸島、スリランカ、タイ、トルコ

防災行政管理者セミナー

研修員14名

 

 

表7-4-2 短期防災研修(日本人)

 

日 時

 

 

場 所

 

 

主な出席者・出席人数

 

 

内 容

 

98/11/13

ひょうご国際プラザ

姫路工業大学環境人間学部学生50名

 

 

 

 

同  上

98/11/26

ADRC

近畿2府7県防災所管課担当者一行20名

98/11/27

ひょうご国際プラザ

兵庫県、市町防災専門家養成講座参加者一行42名

99/01/13

ADRC

防災まちづくり研究会一行10名

99/02/22

同上

神戸市消防学校教育訓練参加者3名

99/03/04

同上

酒田市消防署3名

 

 

7−5 防災教育・訓練に関する現状の分析

 本年度においては、本課題についての第一段階として防災教育・訓練の現状把握を主として行ったところである。研修コースについての現状把握の段階において明らかになったこととして、次の点が挙げられる。

    1. 開発途上国においては研修コースは少なく、開発国が開催している研修コースが多い。
    2. 研修対象としては行政向けのコースが多く、一般市民向け及び企業への研修コースは少ない。
    3. 開発国における研修コースが多いことは、人材育成の観点からの国際協力と考えられる。
    4. ただし本年度はアジア防災センターによる英語による情報収集であったことを考慮すると、開発途上国の研修コースが少ないと断定することは危険である。
    5. 研修対象として一般市民向け及び企業への研修コースは少ないことは、災害担当は行政官が第一義的に責任を持つのが一般であるので当然であるが、一般市民、企業への研修も重要であるという認識に立つと一般市民、企業への研修の現状をさらに把握し、その分析を進めていく必要がある。

 

7−6 今後の方針

本年度における研修コースの把握はこの分野の第一段階であり、本年度における現状把握での制約と次年度からの方向を以下に示す。

    1. アジア防災センターが共通言語として英語を用いるため、研修コースの把握においても英語を用いることから、欧米英語圏の情報が主体となっていること。
    2. そこで、非英語圏における研修コースの把握は今後順次実施していくこと。
    3. 研修生を国際的に受け入れるコースを主眼としたため、国際機関や開発国における研修コースが主体となっていること
    4. アジア防災センターが主体となって情報収集を行ったことにより、それぞれの国にある研修コースの十分な把握ができていないこと。

そこで、第2段階としての平成11年度においては、メンバー国を中心として各国の防災担当者への直接の現状把握依頼を行って、各国の内部で実施されているコースの把握を行うこととした。

このような方針で現状把握を進めていくことで教育・訓練プログラムのデータの充足を図るとともに、教育・訓練プログラムのカリキュラム、テキストの収集を図ることとし、現状把握に基づく分析から、アジア防災センターにおいても、防災教育・訓練プログラムの開発を検討する。