3 防災情報の収集と提供

3−4 20世紀アジア災害総覧データベースの構築

 過去において発生した大きな災害について、どのような規模の災害に対してどのような対策をとり、どのような効果・反省点・教訓が得られたのかを知ることは、今後の様々な防災対策を講じる上で非常に重要である。今世紀に発生したアジア地域の災害について、このような情報をデータベースにまとめることは、次の世紀への貴重な情報遺産となることが期待される。
 現在、今世紀に発生した自然災害に関する統計情報については、ベルギーのルーベンカトリック大学災害疫学研究所(CRED)に蓄積されており、また、国連の人道問題調整事務所(UN-OCHA)からは、1980年以降の主要な災害についての状況報告書などをはじめ、様々な機関から災害関連情報がインターネット上に発信されている。
 アジア防災センターは、1999年12月のADRC国際会議において、このような既存のデータベースを有効に活用し、連携を取りながら、20世紀に発生した自然災害についての包括的なデータベースを構築することの必要性を確認した。さらに、データベース構築に際してはメンバー国が協力していくことの合意を得た。

 

3−4−1 ルーベンカトリック大学災害疫学研究所の災害データベース

 ベルギーのルーベンカトリック大学災害疫学研究所(CRED)では、米国海外災害援助局(US OFDA)と協力しつつ、1900年以降に世界中で発生した死者数10人以上、あるいは被災者数が100人以上の災害を対象として、統計数値を災害データベース(EM-DAT)に蓄積している。(図3-4-1-1参照)

図3-4-1-1 世界の自然災害 <発生件数(1900〜1999)>

 

  このデータベースは、国際赤十字・赤新月社連盟の世界災害報告、日本、オランダ政府の防災白書等の基礎数値などとして採用されるなど、世界で唯一の信頼できる災害統計データベースとして位置づけられ、すでに世界中の防災関係者に広く活用されており、我々が新しくデータベースを構築する際に、このデータベースの存在を無視することはできない。
 1998年度までは、このデータベースは一般には公開されておらず、必要なデータをCREDに文書で依頼することにより、集計表が送られてくるシステムとなっていたため、前年度は、アジア防災センターの各メンバー国における災害件数等を災害規模別に集計した表の提供を求めたところである(1998年度アジア防災センター年次報告書参照)。ところが、1999年秋には、このEM-DATがインターネット上に公開され、様々な集計結果、グラフ等とともに全データをダウンロードし、加工することが可能となった。

 

3−4−2 メンバー国に関するCREDデータの検証

 EM-DATがインターネット上に公開されたことにより、アジア防災センターメンバー国に関する自然災害の生データを入手することができ、早速メンバー国にそのデータの提供を行い各国政府が保有する統計数値との整合性について、合計値での確認を各国に依頼した。
 その結果を表3-4-2-1に示すが、死者数については個別に見るとかなり相違が見られるものの、合計値としては比較的近い数字となっている。しかし、その他の項目の数値については、各国政府の数値とは大きな隔たりがあることが判明した。
 この理由としては、

EM-DATの出典が政府機関であるものはむしろ少数で、再保険会社のレポートなどを主たる情報源としていること(表3-4-2-2)
データの収集が本格的に行われだしたのは1973年のCRED設立以降であり、それ以前の災害統計については体系的に収集されていなかったこと(このことは、図3-4-1-1に示すEM-DATへの登録災害件数が1973年ごろから急激に増加していることの要因ともなっている。)
被害額などは、特に古い災害については各国政府機関においても、あまり記録されていないことなどが考えられる。

表3-4-2-1 各国政府の統計数値とEM-DATとの比較

 

表3-4-2-2 EM-DATの情報源

 

3−4−3 CREDとの共同プロジェクト

 アジア防災センターは、1998年度からCREDに対してこの20世紀アジア災害総覧データベース・プロジェクトの構想を説明しデータ提供を求めており、1999年7月と10月にはCREDを訪問するなど、両者の協力体制・信頼関係の構築に努めてきた。
 また、CRED側としても、上記のようにデータが必ずしも完璧ではないことは認識しているところであり、アジア防災センターが有するアジア22ヶ国の防災担当政府組織とのネットワークを利用してデータの信頼性を高めることについて、大きな関心を寄せるに至った。
 このようなプロセスを経てアジア防災センターとルーベンカトリック大学災害疫学研究所(CRED)とは、1999年11月5日付で、「防災情報収集協力についての覚書」を締結し、両者は協力しつつEM-DATの信頼性を高めるとともに、統計データ以外の関連情報についても双方で協力しながら収集・整理・発信していくこととなった。

3−4−4 CREDデータベースに見るアジアの災害

 今年度は、EM-DATのスタンダードデータを入手し、全世界の自然災害、メンバー各国の生データを加工することにより、全世界とアジア全域の災害についての比較、メンバー国別の災害発生件数・死者数について10年単位・災害種類別の集計・図化を行い、各国の自然災害の概要を把握した。また、CREDのデータをより使いやすくするための提言をCREDに対して行い、スタンダードデータと拡張データのフォーマットについて一部変更を加えるに至った。

(1) 世界の中のアジアの災害

 図3-4-4-1は、1900年以降の地域別の災害発生件数の推移を10年ごとに集計し、年平均に修正してグラフ化したものである。(1990年代は1998年まで)
 これによると、EM-DATに登録されている災害発生件数は、前述のようにCREDが活動を開始した時期(1973年)あたりから急増していることが読みとれる。今後、CRED-ADRC共同プロジェクトの進展により、登録数値が増加・修正されることが予想されるが、現在でも定性的な傾向を把握することは可能であると判断し、1950年以降の数値を分析対象とした。しかし、1950年以前のデータは非常に少ないため、以後の分析対象からは外した。
 図3-4-4-2は、1950年以降の地域別災害発生件数のシェアを10年ごとに集計しグラフ化したものである。件数の多少に関わらず、アジア地域内での発生件数はおおむね40〜50%の割合で推移しており、アジア地域の面積が全世界の約20%であることを考慮すると著しく大きい数値であるということができる。

図 3-4-4-1 地域別災害発生件数

 

図3-4-4-2 地域別災害発生件数

 

図3-4-4-3 地域別災害別死者数<1950-1998>

  図3-4-4-3は、地域別災害別の死者数を示す。死者数においても、アジア地域は他地域に比べて大きな値を示している。1950年〜1998年の合計は約490万人で、これは全世界の合計値の70%を越えており、アジアの人口割合58%と比較しても大きくなっている。災害種別で見ると、アジア、アフリカ地域において干ばつによる死者が多いことがわかる。それに加えてアジア地域では、洪水、地震、台風による被害が大きく、死者の数を押し上げている。特に洪水による死者数はアジアの全災害の約45%に達しており、この地域の被害を特徴づけている。

(2) メンバー国における自然災害

 図3-4-4-4は、メンバー国における災害発生件数の推移を10年ごとに災害種類別に集計し、グラフ化したものである。また、図3-4-4-5 は、死者数について同様に集計・グラフ化したものである。また、死者数についての集計表を表3-4-4-1に示す。
 この2種類のグラフを比較すると、発生件数が右肩上がりに増えているのに対し、死者数については、1990年代は1980年代よりも死者数は増えているものの、総じて減少傾向にあることが読みとれる。これらは、近年において、途上国に対して様々な防災に関する措置が講じられてきた一つの成果とも考えることができよう。
 しかし、この死者数のグラフにおいて、1920年代から1950年代の大きなピークを作っている要因が、中国、インド、ソ連、バングラデシュにおける100万人単位で死者数が登録されている飢饉、干ばつ、水害などによるものであり、アジア全域の傾向とは必ずしも一致しないことに留意する必要がある。

表3-4-4-1 メンバー国別、年代(10年)別、災害種類別死者数

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図3-4-4-4 メンバー国における災害発生件数<1950-1998>

 

図3-4-4-5 メンバー国における死者数

 

国別の死者数を見ると、飢饉をのぞいた場合、

水害やサイクロンなどの気象災害が多発するバングラデシュ、大韓民国、スリランカ、ベトナム、カンボジア
地震・火山などの地盤災害が多いインドネシア、日本、モンゴル、PNG、
両者ともに多い中国、インド、ネパール、フィリピン、ロシア(水害は少ない)、ミャンマー
比較的災害が少ない(報告されていない)ラオス(気象)、マレーシア(気象)、シンガポール(なし)、タイ(気象)、

に大別することができる。

  なお、ネパールは地震も多い国に分類したが、これは、1934年に死者約9,000人を出した地震によるものである。ところが、それ以降あまり大きな地震がないため、ネパールには地震があまりないとネパール国民にも思われている点に留意する必要がある。
これらの数値の基礎となるEM-DATの生データについては、別途冊子にまとめるとともに、アジア防災センターのホームページ上にも公開する予定としている。

 

3−4−5 今後の展開

 次年度からは、今年度に概略を比較したEM-DATの基本データに加え、地震の震源情報などを加えた拡張データについて、各国政府が有する統計数値と個別に照合・修正し、EM-DATの信頼性向上を図る。
 その後、各国ごとに主要災害をリストアップし、それに関連する教訓、対策、その他の関連情報などを収集し、それらを一つのシートからリンク可能な形のフォーマット(表3-4-5-1)にまとめる作業を行う予定である。
 関連情報の収集先としては、CREDの保有資料、国連人道問題調整事務所(OCHA)のレリーフウェブ、各国の政府関係機関、研究機関、大学等の既存データベース、あるいは、カントリーレポートの記載事項等を検討している。
 同時に、各国におけ防災関連情報のインターネットホームページの作成を支援し、将来的には、各国のホームページの情報源にリンクすることにより、それぞれの情報提供が行えるようなネットワークシステムの構築を目指していく。
 このように、世界各地、各機関で発信されている自然災害情報と、今後構築していく各国のホームページに掲載される自然災害情報のインデックスをアジア防災センターのホームページに作成するとともに、それらを容易に抽出できる検索エンジンを設置し、インターネット時代にふさわしい世界中の情報資源を有機的に活用した自然災害情報データベースの構築を目指す。 


表3-4-5-1 データフォーマット(記入例)