6 防災に関する知識の普及、意識の向上資料の企画

 アジア地域における自然災害の被害軽減のためには、被災者となる災害弱者など一般市民に対する防災知識の普及、意識の向上対策が必要である。アジア防災センターは、この目的のために、メンバー国より防災知識の普及、意識の向上に関する資料を収集・整理し、分析した上で必要に応じて提供する他、個別ニーズに対応した防災知識の普及、意識の向上資料企画のために活用していく方針である。

 

6−1 課題把握の方針

 防災知識の普及、意識の向上資料の企画について、アジア諸国でのこれらの課題に対するニーズの把握を行うとともに、各国が行っている防災知識の普及、意識の向上のためのツールや広報資料、教育資料など普及資料の収集を行う。それらの結果をデータベースとして作成し、アジア防災センターのホームページを通じて、それらの情報の共有化を図る。

 さらに、これらの活動を通して防災知識の普及、意識の向上資料に対する各国の個別ニーズに対して、アジア防災センターとして主体的に企画段階から参画し、上記リソースの有機的活用を図っていく。

 

6−2 ニーズの把握方法

 アジアにおける自然災害の多様性と、災害多発国の多くは開発途上国であることを考慮すると、アジアにおける自然災害の軽減を図るには、災害による直接の被害者である一般市民層など国民一人一人への防災知識の普及と彼らの防災意識の向上が不可欠であると思われる。

 しかし、各国の事情はそれぞれ異なるため防災知識の普及及び防災意識の向上に関する各国のニーズもまた異なるものであり、アジア防災センターとしても、各国毎のニーズを把握し、適切な対応をする必要がある。

 そこで、アジア防災センターでは、次のような方法により防災知識の普及及び防災意識の向上に関する各国の状況を調査すると共に、各国のニーズを把握することとした。

これらの結果把握した各国の状況を表6-2-1に示す。

 

表6-2-1 各国の防災知識の普及・啓発に関する状況

 

国 名

普及・啓発に関する状況

バングラデシュ

 

政府が国民の教育や意識向上のため組織的な取り組み実施。大学のカリキュラムや教師の能力開発にも注力。

就学率30%と低いが、現地の人々が災害に対応できるよう教育実施。

ローカルスローガンが各言語(バングラ等)で掲示。このスローガンをテレビやラジオを通じて広報している。

サイクロン準備研修も実施。36,000人のボランティアが参加して、危険防止シェルターを用意したり、サイクロンの速度や上陸可能性により、避難勧告をする助けをしている。洪水も同様。浸水しそうな地域住民を高地に避難誘導している。ハザードマップも作成。

3月31日の全国災害記念日には、色々な人が集まり盛り上げる。また、その1ヶ月前から、記念日の成功のために、自分で防災を行う意識を人々に広める。

プレスは防災関連記事により意識向上に貢献。良好な関係を維持。

インド

 

多言語のため、プログラムやパンフレットを1言語で作成・配布できないため方策を検討中。

識字率60%。識字率アップのため努力中。大人向けには大人の心理や経験などにあった教材を開発中。16NGOの大人向け学校あり。

COBCという35の学校区代表が集まったセンターを中心に災害教育を各学校で行っていこうという試みあり。

遠隔学習も始まったばかりで、公務員やボランティア、退職者などの研修コースあり。

メディアは意識向上に有益。テレビ、ラジオ、新聞で、人々の態度、行動が変化する。メディアに関するワークショップも開催。よい関係を探っていくべき。

憲法改正があり、選挙が村レベルから始まる。この村レベルに研修が最も必要だ思う。このレベルに対し、大規模教育を検討中。

地方政府はリスクアセスメントやハザードマップなど対応必要。

地方政府の協力なしには、教育・研修は成功しない。

インドネシア

災害脆弱地域の住民の自主防災意識向上に注力。ハザードマップ作成中。

社会安全ネットプログラムの中で地域対応力の強化推進。

日 本

9月1日は防災の日、1月17日は防災とボランティアの日と定め、それぞれ一週間前から、普及、啓発、訓練のイベントを実施。特に、前者には首相が訓練に参加して国民の意識改革に努力。

識字率は100%に近いが、国民の防災意識の一層の向上のため、今後教材として、まんが、写真、絵なども活用したい。

各自治体は各種ガイド、パンフレット、学校教育向け防災教育読本等を作成。

ハザードマップ作成は最近まで反対があった。これは、地価の低落につながるためだが、早く危険を知らせるメリットを評価されて、作成されつつある。

カザフスタン

児童生徒への「緊急救命」訓練実施。テレビ・ラジオ等マスメディアも広報に寄与。

韓 国

毎年、防災教育、防災訓練などをして、対応能力向上に努めている。

ネパール

 

ラジオ、テレビによる防災番組放送。

ポスター、パンフレット、ワークショップ、セミナー、防災訓練実施。

識字率は40%で大多数の人々が文字を読めないという状況である。これが防災意識向上の大きな問題となっている。ADPC、JICAなどの支援を受けて政府やNGOが研修プログラムや意識向上プログラムを各地で実施。

1000を超えるNGOが存在するが、効率が悪い。首都近くの都市部に位置して、地方に行くのを嫌がる。

防災教育はいまだに学校カリキュラムに入っていない。

人口の92%が小さな村に住んでおり、数日から20日もかかる場所もある。道路ネットワークや空路もないので、歩かなくてはならない。多くの人々は防災について全く知らない。また、これらの遠隔地からは、コミュニケーション手段がないため、被害情報も入りにくく、政府の被害統計にも情報が含まれていないこともある。

パプア

ニューギニア

能力開発及び意識改革の目標あり。意識改革は非常に難しい。現実に即した研修内容も重要。都市部中心の研修のみならず、地方部中心のカリキュラムも検討。AusAidは2000年に向けて意識向上支援中。

フィリピン

全国で防災訓練実施(1998年103回)。コミュニティ、NGO等の活動活発で地域住民の防災意識は高い。

ロ シ ア

防衛アカデミーで、中学校レベル卒業生を受け入れる5〜6年コース、2〜12週間の様々な対象者向けコース実施。役人、軍、民間人参加。

国際救援センターも専門家養成コースを4〜24週間で用意。

EMERCOMは民間にも講師を派遣。

学校にも特別コースあり。2年で一般的な防災・救援コース修了可能。

市民防衛省が月1回雑誌“Civil Protection”を発行。

地域ごとに民間や地方政府による2〜4週間のコースもあり。

今年は2つの訓練(洪水対策訓練と放射線汚染訓練)予定。

 

シンガポール

 

市民防衛隊(SCDF)ホームページで啓蒙情報発信。

各種研修コース開催。

2000年までに市民防衛大学(CDA)開設予定。

スリランカ

政府、NGOから、地域レベルや草の根レベルの人々へ研修実施。リーダーシップを取っていくべき人には、深い知識の研修が必要。政治家も積極的に取り組む姿勢が必要。学生から政治家まで広範囲な教育を検討中。

タ イ

メディアを通じず、対象者である学生やボランティアに直接働きかけている。現在、漫画などを利用して災害に対する意識を上げている。

ヴィエトナム

テレビ・ラジオなどマスメディアで洪水暴風雨予報・警報を放送。

中央レベル、プロビンスレベル、ディストリクトレベル、リージョナルレベルに分かれて研修実施。最も重要なのはディストリクト、リージョナルレベル。コミュニティーの代表を招待して研修を行っている。

ス イ ス

マネジメント・レベルを対象に研修実施。

人道的救援では、スイス救済ユニットがあり、ここの研修コースには海外からの参加もある。

 

これまでに把握できた各国の防災知識の普及及び防災意識の向上に関するニーズは、概ね以下のとおりである。

(各国に共通するニーズ)

 

6−3 収集資料

 防災知識の普及及び防災意識の向上資料に関しては、アジア防災センターのメンバー国からも現地調査実施の際など若干の資料提供を受けたが、日本国内でも地方自治体などから関係資料を収集した(表6-3-1)。

 なお、これらの資料については、データベースにインデックスを掲載し、メンバー国などの照会・要請に応じて現物資料を活用できるようにする予定である。

  1. ハンドブック類
  2. 自主防災ハンドブック、安全メモ(災害別)、市民防災マニュアル、家庭用防災の手引き、災害弱者支援用マニュアル、防災ビデオ、防災センター紹介パンフレット、防災マップ、防災拠点マップ、防災計画図、企業危機管理マニュアル、防災辞典など

  3. 教育委員会・防災教育指導資料
  4. 児童生徒用副読本、安全指導の手引き、学校地震対応マニュアルなど

  5. 災害記録

震災記録、雲仙普賢岳噴火災害史、周年記念誌など

 

表6-3-1 国内で収集した普及啓発資料(抜粋)

 

発行者/作成者

タイトル(日本語)

横浜市消防局予防部予防課

私たちの町は私たちが守る

奥尻町防災会議

奥尻町防災ハンドブック

横浜市総務局災害対策室

災害!わが家の危機管理マニュアル

横浜市総務局災害対策室防災技術課

地震に備えて 地域防災拠点&地域医療救護拠点

横浜市総務局災害対策室

大地震に備えて 横浜市高密度強震計ネットワーク

横浜市総務局災害対策室

大地震あなたはどうすべきか

墨田区地域振興部防災課

地震に備えて

神戸市消防局予防部予防課

みんなで創る防災のまちKOBE

神戸市

安全で安心な住まいとまちづくりのガイドブック

芦屋市企画財政部防災対策課

災害に関する市民意識調査報告書

北海道総務部防災消防課

自主防災組織育成・強化の手引き

名古屋市消防局

市民防災ハンドブック

神戸市防災会議

神戸市地域防災計画の概要

名古屋市

避難所運営マニュアル

芦屋市企画財政部防災対策課

防災のしおり(家庭保存版)

島原市 SHIMABARA CITY

土石流対策シンポジウム報告書

横浜市

わが家の危機管理マニュアル

社団法人 日本損害保険協会

グラグラドンがやってきた

中央区

大震災わが家の備えヒント集

社団法人 日本損害保険協会

くらしの防災チェック

ひょうご創世研究会

ひょうご創世への提言

静岡県

警戒宣言−あなたはどうする−

和歌山県

南海道地震から50年

和歌山県

木造住宅耐震マニュアル

 

 

6−4 今後の方針

 アジア防災センターとしては、専門家会議での決定(各国の防災知識の普及及び防災意識の向上に関する資料をアジア防災センターに提供していくこと)を受け、今後各国に対して具体的な防災知識の普及及び防災意識の向上に関する資料の提供を要請し、受領した資料をデータベース化して、アジア防災センターのホームページ等を通じて情報提供していきたいと考えている。

 また、これまでに明らかとなった上記のニーズを受け、共通する課題を有するメンバー国間で専門家や地域住民も交えての共同研究、ワークショップ実施などの多国間防災協力推進のために必要な支援を行っていきたい。

 たとえば、識字率の低い住民への普及啓発に関しては、絵文字や口承による伝達・周知などによる普及啓発手法の検討を、また遠隔地住民への防災知識の普及に関しては、地域毎にボランティアを育成し、各地域内での集会を実施したり、地域を巡回したりすることにより地域の対応力強化を図るなどの検討を進めていくことが必要と思われる。

 防災知識の普及・意識の向上資料の企画に関しては、各国のニーズ及び活用しうる各国のリソースの把握に加え、関係国の具体的な必要に対応した企画・調整などが大切であり、アジア防災センターとしては、メンバー国での個別のニーズに応じた普及啓発資料の企画作成などに積極的に参加していく所存である。