4 防災協力の推進に関するニーズとシーズの把握
アジア防災センターでは、アジア地域における防災情報の収集と提供を推進すべく、本年度は防災体制、災害対策事例、自然災害情報、人材情報等の収集に主眼を置いてきた。アジア防災センターのメンバー22カ国は、これらに関し共通の課題を有する一方で、地理的、気候的にも多種多様であることから、それぞれ固有の防災の課題をも抱えている。
こうしたことから、今後も情報の収集に努め、収集した情報を提供するうえで、各国が必要とするニーズ、及び他国に対し提供できるシーズを把握することは、アジア防災センターの活動を推進するうえでの前提条件であるともいえる。
アジア防災センターは1994年横浜で開催された国際防災の10年世界会議を契機に、1998年7月に設立されたものであるが、翌年度は国際防災の10年の最終年を迎えることから、同終了後の防災協力のあり方に向けても、より一層の各国のニーズ・シーズ調査に努めることが重要と思われる。
4−1 ニーズとシーズの把握の方法
ニーズ及びシーズの把握に関しては、アジア防災センターの活動初年度であることを踏まえ、ヒューマン・ネットワークを構築しつつ、調査を実施した。具体的にはメンバー国調査、専門家会議開催によるメンバー国関係者の招聘、国際会議への出席等、フェイス・トゥ・フェイスによる直接対話に主眼を置き、ニーズ・シーズの把握に努めた。
4−1−1 メンバー国調査
アジア防災センタースタッフによる参加国調査を以下のとおり実施した。
- 韓国現地調査(98.10.25〜10.28)
- フィリピン、マレーシア、シンガポール現地調査(98.11.8〜11.19)
- バングラデシュ、タイ、ヴィェトナム現地調査(98.11.16〜11.26)
- インドネシア・ブルネイ現地調査(98.12.2〜98.12.11)
4−1―2 専門家会議等の開催
1999年2月15〜18日にかけてメンバー国、アドバイザー国の21カ国、オブザーバー1機関の計30名を召集し、神戸市内で専門家会議、シンポジウム、フィールドトリップを実施した。
1. 日 程
99.2.15(月) シンポジウム
99.2.16(火) 専門家会議
99.2.17(水) 専門家会議
99.2.18(木) フィールドトリップ
2. 参加者(表2-1-1参照)
3. ニーズ及びシーズ把握のための協議項目
過去及び現在進行中の災害情報
災害管理体制と対策
防災教育と啓発
最新技術の活用
写真4-1-2-1 専門家会議開催状況(全体会議)
写真4-1-2-2 専門家会議開催状況(分科会) 写真4-1-2-3 専門家会議開催状況(分科会)
4−1−3 カントリーレポートの収集
専門家会議を実施するにあたって、メンバー国及びアドバイザー国よりカントリーレポートの提出を要請した。
4−1−4 国際会議への出席
防災協力に関する国際会議に出席することにより、アジア防災センターの活動を広報することはもとより、参加国のニーズ及びシーズの把握に努めた。
- HABITAT国際会議(98.10.5〜10.6)
- WHO西太平洋国際会議(98.11.9〜11.13)
- ESCAP−IDNDRアジア地域国際会議
(99.2.23〜2.26)
4−2 防災協力に関するニーズとシーズ
前記把握方法を通して、以下の項目においてニーズ及びシーズに関する調査を行うことが各国、関係国際機関及びNGO等より提案された。
本件に関しては、当初災害別にニーズ、シーズを把握する方法を試みたが、各国とも複数種別の災害を抱えており、これらに共通する課題に対処すべきニーズ・シーズを有していることから、本年度はまず各種災害に共通する事項を含めて以下の項目でニーズ及びシーズを把握することとした。
4−2−1 過去及び現在進行中の災害情報
将来の災害を軽減するための過去の災害からの教訓、及び緊急援助を含めた災害発生時の対応等を中心とする情報が重要である旨確認した。これら情報をADRCにおいて検索するシステムの構築が期待されている。
1. ニーズ
過去の経験からの教訓による自然災害のインパクトの軽減(専門家会議)
阪神・淡路大震災に関する情報の充実(専門家会議)
緊急援助活動を有意義に実施するための被災国自らの災害情報の発信(専門家会議)
メンバー国によるホームページ作成のためのアジア防災センターによるインデックス、検索システムの構築(専門家会議)
緊急援助ワーキンググループの創設(カンボジア)
災害が及ぼす健康問題に関する地域協力(マレーシア)
災害発生時の対処法に関するポリシー・フォーラムの実施(バングラデシュ)
持続可能な発展のための災害に対する脆弱性軽減に関する戦略の構築(バングラデシュ)
災害軽減、早期警報、緊急援助及び軽減、復旧、復興に関する評価の強化(ネパール)
救援活動のモニタリング、見直し及び協力
2. シーズ
メンバー国による過去の災害経験の提供(専門家会議)
阪神・淡路大震災に関する情報の提供(専門家会議)
被災国からの共通のフォーマットに基づく災害情報の提供(専門家会議)
災害救援、復旧事例に関する専門知識の提供(インド)
災害評価に関する専門知識の提供(インド)
災害救援活動への貢献(日本、シンガポール)
アジア防災センターによるインデックス、検索システム構築に基づくメンバー国のホームページによる情報提供開始(専門家会議)
4−2−2 災害管理体制と対策
防災体制における先進事例の紹介、国あるいは国際機関等とのネットワークの構築、さらには防災専門家データの充実等の重要性を確認した。
1. ニーズ
国内レベルでの法整備の充実、先進事例の情報入手(専門家会議)
国境をまたがる災害に対応するための体制づくり(専門家会議)
メンバー国の災害管理体制の詳細の情報提供(オーストラリア)
防災専門家データ情報の充実(インド)
災害管理体制に関するネットワークの構築(インド)
救援活動計画に関するパイロットプロジェクトの開発(モンゴル)
中央、地方政府等の連携強化(ネパール)
2. シーズ
法体制を持つ国からの先進事例の情報提供(専門家会議)
救援マニュアル、規則、アクションプランに関する専門知識の提供(インド)
災害組織体制確立(国、州の災害管理センターシステムの確立)に関する情報提供(インド)
加盟国間の調査、バンコクのADPC等国際機関との連携、セミナー実施等による協力体制の拡充(専門家会議)
防災専門家データ情報の提供(専門家会議)
4−2−3 防災教育と啓発
研修、普及啓発等を通しての防災の各分野における人材育成の重要性について確認した。
1. ニーズ
政治家から草の根まであらゆるレベル及び災害脆弱地や遠隔地を含めたあらゆる地域における防災知識の普及、研修の強化(専門家会議)
災害予防に関するローカルコミュニティの強化(バングラデシュ)
人材開発における地域協力(インド)
緊急救援捜索活動における人材の育成(マレーシア)
リスクアセスメント及び分析、災害救援コミュニケーション、災害軽減分析に関する人材の育成(モンゴル)
セミナー、会議、出版物等に関する知識の交換(マレーシア)
災害軽減、早期警報、緊急援助及び軽減、復旧、復興に関する研修の強化(ネパール)
防災技術に関する研修の強化(フィリピン)
2. シーズ
メンバー国の研修教育マニュアル、普及資料等のアジア防災センターへの提供(専門家会議)
メンバー国の研修情報の提供、研修への講師の派遣、関係国によるワークショップの開催(専門家会議)
人材開発に関する専門知識の提供(専門家会議)
救援及び消防活動に関する研修の提供(シンガポール)
都市型捜索救援及び緊急体制に関する研修の提供(シンガポール)
4−2−4 最新技術の活用
天候予測、災害警報、危険度判定等をはじめとする最新技術の活用についての各国の期待の高さを確認した。
1. ニーズ
警報及び災害対応システムを容易にするコミュニケーションサービスの確立(バングラデシュ)
最新技術に関する専門知識及び情報の交流(マレーシア、フィリピン、シンガポール)
GIS/RSの災害管理システムへの活用促進及び技術支援(専門家会議)
信頼性の高いデータの供給、情報の集約、配信(専門家会議)
危険度及び脆弱度判定、分析等における地域協力(インド、カンボジア、モンゴル、オーストラリア)
危険度判定、防災コミュニケーションに関するパイロットプロジェクトの開発(モンゴル)
衛星通信によるインターネット、ラジオ・テレビ放送への活用(バングラデシュ)
警報、気候の変化及びメカニズムに関する研究(モンゴル)
限られた資源のもとでの遠隔地域との災害情報コミュニケーションの円滑化(モンゴル)
天候監視及び予報システムの効果的活用(モンゴル)
天候に関するサテライト・イメージの共有(フィリピン)
洪水に関する予測及び警報システムの確立(フィリピン)
災害軽減技術、サイクロン警報対応、地震エンジニアリング、緊急時における遠隔地通信システムに関する技術の移転(フィリピン)
2. シーズ
森林火災管理、地震、洪水による被害予測のシミュレーション(専門家会議)
インフォメーションテクノロジーに関する専門知識の提供(インド)
4−2−5 その他
上記4項目以外にも、ネットワーク等の構築で各国が強い関心を抱いていることを確認した。
1. ニーズ
財政支援(バングラデシュ)
防災関係組織間のネットワークの構築(インド、バングラデシュ)
財政及び人材不足、低識字率、遠隔地域等のもとでの災害の軽減(ネパール)
ポストIDNDRに向けての国際ネットワークの構築(IDNDR-ESCAP国際会議)
アジア防災センターの目的、優先課題、活動計画の情報提供(オーストラリア)
メンバー国及び関係機関のホームページへのリンク(オーストラリア)
メンバー国及び関係機関のコンタクト先に関する情報提供(オーストラリア)
メンバー国に対する関係情報の提供(オーストラリア)
ニュースレターの発刊(オーストラリア)
アニュアルフォーラムの開催(オーストラリア)
2.
シーズ
都市における災害予防、教育をはじめとした災害軽減のための知識、ノウハウ等の集積(シンガポール)
各国の政府機関、専門機関、NGO等が持つ知識、ノウハウ等の集積(IDNDR-ESCAP国際会議)
4−3 今後の方針
アジア防災センターとしては、各国等より入手した上記内容を整理・分析し、重要性及び実現可能性等を考慮するとともに、アジア防災センターの設立目的にも照らし合わせつつ優先順位を決め、来年度以降の活動に反映させていきたい。
さらに、ニーズ・シーズの把握そのものの調査についても、単年度で終了することなく引き続き実施することが肝要である。今年度のニーズ・シーズに新たな内容を付け加えるとともに、さらなる分析を行うことで、災害別のニーズ・シーズを整理することも可能になると期待される。
特に来年度はIDNDR最終年にあたることから、以後のアジア地域における自然災害軽減に向けて、アジア防災センターとして如何に貢献できるかの検討が重要となる。国際ネットワークの構築を含め、メンバー国政府のみならず海外及び国内の関係防災機関、NGO等を含めた幅広い視点からのニーズ・シーズの把握が必要になると思われる
。