日本

カントリーレポート

1999

 

 

 

 

 


 

目  次

 

T.災害発生状況

1)過去の主な災害

2)海外からの支援受入れ

U.防災対策

1.防災制度・体制・計画

1)防災関係法制度

2)防災体制

3)防災計画

4)国際防災の10年期間中における制度等の改正

2.防災対策

1)防災関係予算

2)防災対策に関する施策の概要

3)今後の課題

V.我が国の国際防災協力

1.国際防災の10年への取り組み

1)国際防災の10年推進本部の設置

2)国際防災の10年への取り組み

2.国際防災協力の現状と今後の方向

1)概況

2)主要な国際防災協力活動の現状

3)主要な国際防災協力の現状と今後の方向

4)今後の国際防災協力の基本的な考え方

W.普及啓発

 


T.災害発生状況

 

1)過去の主な災害

我が国は、台風の常襲地帯に位置するとともに、地震、火山活動が非常に活発な太平洋プレート境界である環太平洋地震帯・火山帯に位置しています。このため、毎年のように地震、台風、豪雨、豪雪、土石流、地すべり、火山噴火などの数多くの自然災害に見舞われている。

我が国における自然災害による死者・行方不明者数は1960年頃から減少し、総じて漸減傾向にあったが、1990年代に入り大型台風の相次ぐ上陸、豪雨の発生、雲仙岳の噴火(1991年、死者・行方不明者44人)、大きな津波被害に見舞われた北海道南西沖地震(1993年、死者・行方不明者230人)、阪神・淡路大震災(1995年、死者・行方不明者6,433人)等甚大な被害をもたらす大規模な災害が頻発しており、自然災害による施設関係等被害額についても1兆円を超える年が相次いでいる。

 

2)海外からの支援受け入れ

阪神・淡路大震災時における海外からの救援活動等の人的・物的支援については、76の国・地域、国連、WHO、欧州連合からの申し入れ支援があり、被災自治体の意向を確認した上で、44の国・地域の支援の受け入れを決定した。受け入れた国・地域及びその内容は(表  )のとおりである。

                            (表:平成7年版白書P63


 

U.防災対策

 

1.防災制度・体制・計画

 

1)防災関係法制度

我が国では、5千人余の犠牲者を出した1959年の伊勢湾台風を契機として、1961年に災害対策基本法を制定した。この法律は、従来の防災体制の不備を補い、総合的かつ計画的な防災行政を推進するため、i)防災責任の明確化と災害予防・災害応急対策・災害復旧の実施、ii)総合的防災行政の推進、iii)計画的防災行政の推進、iv)災害に対する財政金融措置、v)災害緊急事態に対する措置を主たる内容としている。

一般法としての性格を有するこの災害対策基本法の他、治水関係法律や災害救助法、大規模地震対策特別措置法などをはじめとする各種の災害関係法律がある。

 

2)防災体制

国においては、内閣総理大臣を会長とする中央防災会議を設置し、各種防災施策の基本となる防災基本計画を作成するとともに、防災に関する重要事項の審議などに当たることとしている。また、国の行政機関29機関を指定行政機関として、日本電信電話株式会社や電力会社等37機関を指定公共機関としてそれぞれ指定しており、これらの機関は防災業務計画を作成し、災害対策の実施に当たっている。

都道府県、市町村においては、地方公共団体のほか指定地方行政機関(指定行政機関の地方出先機関)、警察、消防機関、指定公共機関等で構成される都道府県防災会議、市町村防災会議が設けられ、これらが定める地域防災計画等に基づき、各種の災害対策が実施されている。

災害が発生した場合、必要に応じて、市町村において災害対策本部を設置して災害応急対策を推進することとなる。さらに、災害の状況に応じ、都道府県においても対策を推進する必要があるときは、都道府県災害対策本部を設置することとしている。一方、国においては、当該災害の規模その他の状況により非常災害として災害応急対策を推進するため特別の必要があると認めるときは、災害対策基本法に基づく非常災害対策本部等を設置して、総合的な災害応急対策の推進に当たることとしている。

 

3)防災計画

災害対策基本法に基づき、防災関係機関は予め下記の防災計画を作成している。

 

a)防災基本計画

防災体制の確立、防災事業の促進、災害復旧・復興の迅速適切化、防災に関する科学技術の研究の推進並びに防災業務計画及び地域防災計画において重点を置くべき事項についての基本的方針を示したもので、中央防災会議が作成する。

b)防災業務計画

各指定行政機関及び指定公共機関がそれぞれ防災に関してとるべき措置について防災基本計画に基づき作成するものである。

c)地域防災計画

都道府県又は市町村の地域について、それぞれ地域の実情に即して当該地域の防災機関がとるべき具体的な措置を定めたもので、各都道府県防災会議、市町村防災会議又は市町村長が防災基本計画に基づき作成する。

 

4)国際防災の10年期間中における制度等の改正

国際防災の10年期間中の制度等に関する主な改正については以下のとおり。

 

a)阪神・淡路大震災関連の立法措置

阪神・淡路大震災では、様々な生活基盤や社会基盤が大きく損なわれたことから、被災者の生活再建、産業や都市の復興などを支援すべく、必要な法改正や新法の制定を速やかに行った。なかでも、震災復興の基本法ともいうべき「阪神・淡路大震災復興の基本方針及び組織に関する法律」(1995年2月公布、施行)においては、阪神・淡路地域の復興の基本理念や復興のための政府の組織としての「阪神・淡路復興対策本部」の設置などを定め、同地域の迅速な復興を推進している。このほか、税関係の法律、特別財政援助法、被災市街地復興特別措置法などをはじめとして、合計16本の立法措置が震災から2か月余りの間に行われた。

 

b)災害発生時の即応体制の強化(内閣における危機管理機能の強化)

阪神・淡路大震災の教訓を踏まえ、災害発生の初期段階において被害の全体的な規模や程度を迅速に把握するため、大規模災害発生時の第1次情報収集体制の強化と内閣総理大臣等への情報連絡体制の整備に関する当面の措置について、以下の措置を行った。

    i)現地の関係者からの早期情報収集、航空機、船舶等を活用した情報収集活動

    ii)内閣総理大臣官邸への迅速な報告連絡のための情報伝達窓口の明確化

    iii)民間公共機関等の有する第1次情報の収集と内閣総理大臣等への報告

    iv)関係省庁、官邸間の情報連絡のための機器整備

    v)関係省庁幹部の官邸への緊急参集と情報の集約

また、関係省庁においても、迅速な情報収集に必要な体制の強化を行った。

さらに、内閣の危機管理機能を強化するため、内閣官房に内閣危機管理監を設置し(1998年4月)、突発的事態に対し、内閣として必要な措置について判断し、初動措置について関係省庁と調整を行うこととした。

 

c)地震防災対策特別措置法の制定

阪神・淡路大震災の教訓に鑑み、地震災害から国民の生命、身体及び財産を保護することを目的とした地震防災対策特別措置法が制定された(1995年6月公布、7月施行)。この法律は、全国を対象として、都道府県における地震防災緊急事業五箇年計画の作成及びこれに基づく事業に係る国の財政上の特別措置並びに地震に関する調査研究の推進体制の整備等について定めている。

 

d)災害対策基本法の改正

阪神・淡路大震災においては、道路上の放置車両及び一般車両の進入等により応急対策のための緊急輸送が著しく妨げられたという問題があった。このため、災害対策基本法の一部を改正し(1995年6月公布、9月施行)、災害時の交通規制措置の拡充、警察官、自衛官、消防吏員による放置車両等に対する強制措置及びそれに伴う物件破損についての損失補償等を定めた。さらに、災害対策の一層の強化を図るため、災害対策基本法の一部を再度改正し(1995年12月公布、施行)、i)緊急災害対策本部の設置要件の緩和及び組織の充実、ii)緊急災害対策本部長(内閣総理大臣)の権限の強化、iii)現地対策本部の法定化、iv)災害派遣された自衛隊の部隊等の自衛官に対する救援活動に必要な権限の付与、v)ボランティアの防災活動、災害弱者、海外から支援受け入れ等に関する防災上必要な措置、vi)地方公共団体相互の応援に関して所要の措置を定めた。

 

e)防災基本計画の改訂

防災基本計画は、1963年に作成、1971年に一部修正し、これに基づき防災対策の充実を図ってきたところである。

しかしながら、その後の社会経済情勢変化も踏まえ、1995年7月に大幅な改訂が行われた。新たな防災基本計画は、必要な災害対策の基本について、国、公共機関、地方公共団体、住民それぞれの役割を明らかにしつつ、時間的な順序に沿って具体的かつ実践的に定めている。また、災害の種類に応じた対策が容易に参照できるよう、震災対策編、風水害対策編、火山災害対策編の各編を立て、さらに災害対策全般に共通する事項を共通編として記述している。

その改訂内容は広範多岐にわたるが、主なポイントとしては、i)多様な手段を活用した被害規模等の迅速な情報収集、ii)広域的な応援体制等による災害応急体制の整備、iii)緊急輸送の確保、iv)備蓄、調達体制の整備と適切な供給の確保、v)避難場所の生活環境の整備と応急仮設住宅の迅速な提供、vi)海外からの支援の受け入れとボランティアの環境整備、vii)災害弱者への配慮などが挙げられる。また、1997年6月には、海上災害、航空災害、道路災害など大規模な事故被害への対策を追加する改訂を行った。

 

f)建築物の耐震改修の促進に関する法律

阪神・淡路大震災の被害を踏まえ、倒壊したビルによる損害から人命及び財産を守ため、新耐震基準を満たさない既存建築物の耐震性の向上が重要であることを認識した。このため、既存建築物の耐震性を向上させるため、既存建築物の耐震性の向上方法に関する法律を1995年に制定した。

 

g)南関東地域直下の地震対策に関する大綱の作成、改訂

人口、諸機能が集中し、中枢管理機能の被災が懸念される南関東地域における地震対策として、中央防災会議は、1992年8月に震災対策の基本方針を示す「南関東地域直下の地震対策に関する大綱」を、1988年12月に地震発生時に各関係機関が行うべき応急対策活動の内容とその手順を定めた「南関東地域震災応急対策活動要領」を決定した。その後、これらを阪神・淡路大震災の教訓を踏まえて、1998年6月に改訂するとともに、重篤患者を救うため、地震発生直後の広域的な医療搬送体制についてのアクションプランを作成した。

 

h)密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律の制定

大規模地震時に市街地大火を引き起こすなど防災上危険な状況にある密集市街地の整備を総合的に推進することを目的として、「密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律」を1997年に制定した。

 

i)津波対策強化のための手引き書の作成

津波対策の強化を進めるためのに津波に係る防災計画の基本方針並びに策定手順等についての提言をまとめて「地域防災計画における津波対策強化の手引き」を作成するとともに、津波浸水予測図を作成するための手法を示した「津波災害予測マニュアル」を作成した。

 

j)被災者生活再建支援法の制定

自立して生活を再建することが困難な被災者に対し、支援金を支給することにより、被災者の生活の立ち上がりを迅速かつ確実に支援することを目的とした「被災者生活再建支援法」を1998年に制定した。

 

k)中央防災無線網の充実・強化

阪神・淡路大震災の教訓を踏まえ、ヘリコプター等による災害映像の伝送及びテレビ会議が行える画像伝送回線の整備、首都直下型大規模地震発生時の地上系の既存通信網のバックアップとなる衛星通信回線を利用した情報伝達システムの構築などの緊急整備を実施した。

 

l)地震防災基本計画の改訂

中央防災会議は、昭和54年に、大規模地震対策特別措置法に基づき、警戒宣言が発せられた場合の国の地震防災に関する基本方針や指定行政機関、地方公共団体などが定める「地震防災強化計画」及び民間事業者等が定める「地震防災応急計画」の基本となる事項等を定める「地震防災基本計画」を策定した。その後、阪神・淡路大震災のさまざまな教訓を踏まえ、平成11年に初動対応の迅速かつ的確な実施、きめ細かな避難対策の実施、広報及び情報伝達の充実等の観点から、地震防災計画の改訂を行った。

 

2.防災対策

 

1)防災関係予算

防災に関する科学技術の研究、災害予防、国土保全、災害復旧等の施策の実施に要した国の予算(国費、補正後)は、1998年度は約3兆2千億円である。

 

2)防災対策に関する施策の概要

 

a)防災に関する科学技術の研究の推進

防災に関する研究開発については、「防災に関する研究開発基本計画」(1993年12月内閣総理大臣決定)に基づき、長期的展望に立って総合的、効率的に推進されている。また、地震に関する調査研究については、上記基本計画、測地審議会の地震予知計画に関する建議等を踏まえつつ、関係機関等がそれぞれの役割を効果的に果たすと同時に、地震調査研究推進本部の下、関係機関等の緊密な連携強化により推進し、結果の総合的評価等を実施している。

 

b)災害予防の強化

災害の未然防止のため、平常時から防災体制や防災施設設備の整備を中心とした災害予防策を推進している。

 

@)防災訓練

各種の防災活動が防災関係機関の緊密な連携と協力の下に地域住民と一体となって迅速かつ的確に実施されるためには、日頃から十分な準備と防災訓練を積み重ねておくことが極めて重要である。このため、毎年、日本全国において、地震、台風、大火災、土砂災害など各種の災害を想定した防災訓練が行われている。

 

A)防災施設設備等の整備

各種観測施設及び予報施設の整備、災害時に機能できる通信・放送施設の整備、消防・水防活動に必要な施設設備の整備、災害に強い道路網や港湾の整備等を図っている。また、都市の防災構造化を推進するため、避難地・避難路の整備、オープンスペースの確保、土地区画整理事業・市街地再開発事業等による市街地の面的整備、建築物の耐震・不燃化、浸水防除施設の整備等の施策を実施している。

 

c)国土保全の推進

水害、土砂災害、震災、火山災害等の自然災害から国土並びに国民の生命、身体及び財産を保護するためには各種の国土保全事業を推進する必要があるが、国土保全事業の推進には、膨大かつ長期間にわたる投資を必要とする。このため、各国土保全事業毎の七箇年計画等の長期計画に基づき、治山事業、治水事業、砂防事業、海岸事業、急傾斜地崩壊対策等事業、下水道事業、農地防災事業、地盤沈下対策事業等を推進している。

 

d)災害応急対策及び災害復旧

災害が発生した場合には、まず被害の状況や規模等の情報を迅速に収集し、これを関係者や関係機関に伝達し、これらの情報に基づいて所要の体制を整備している。情報収集・伝達に続く具体的な災害応急対策としては、人命の救助、救急、医療、消火活動や避難対策、さらには二次災害防止や被災者への水や食料の供給などの支援対策等を実施する。当面の危機的状況に対処した後も、保健衛生、社会秩序の維持、ライフラインや公共施設等施設の復旧、被災者への情報提供等の対策を行う。また、被害の状況により災害救助法や災害弔慰金の支給等に関する法律を適用している。

災害による公共的施設等の被害については、国の直轄又は補助による災害復旧関係事業を迅速かつ的確に実施することとしている。また、被災者に対しては資金の融資等を行い、被災地方公共団体に対しては地方交付税及び地方債による措置を講じている。さらに、被災が激甚な場合には、「激甚災害」に指定し、災害復旧関係事業に対する国の補助率等の引上げ、被災者に対する災害融資の貸付条件の緩和等の特例措置を講じている。

 

e)情報・通信体制の整備及び津波予報、地震情報等の防災情報の充実

防災に関連する正確な情報を的確に収集し、迅速に伝達するため、防災関係機関では、災害状況に係る監視システムや予警報システム等の整備を行っているほか、防災関係機関は、防災関係の専用無線通信網として中央防災無線網、消防防災無線網、都道府県・市町村防災行政無線網等の整備を行っている。

また、地震や津波等による自然災害を防止・軽減するため、地震活動を常時監視するとともに、津波予報、地震情報等を迅速に発表するなど、防災関係機関の対応に必要な防災情報を提供している。さらに、国が整備した震度計に加え、地方公共団体が整備した震度計の震度データの活用、津波予報への数値シミュレーション技術の導入等、津波予報や地震情報等の各種防災情報の内容の充実を図っている。

 

3)今後の課題

従来より、上記2)に掲げる対策を実施してきたところであるが、災害の根絶には限界があり、時として多大な人命並びに財産を失ってきている。災害による被害の軽減には恒久的な災害対策と災害時の効果的対応が重要であるが、これらは、国、公共機関、地方公共団体、事業者、住民それぞれの防災に対する積極的かつ計画的な行動と相互協力の地道な積み重ねにより達成してゆけるものである。また、特に近年の都市化、高齢化、情報化等社会経済構造の変化に伴い、災害の態様も変化し、その対応策も逐次改善を図っていくことが必要である。このため、引き続き中央防災会議を中心として効果的な防災制度のあり方を検討し、実施に移していくこととする。

 


V.我が国の国際防災協力

我が国は、自然災害に見舞われやすい地理的条件にありながらそれを克服し、経済成長と自然災害の減少を同時に達成してきた数少ない先進国として、これまで蓄積してきた防災分野の知識や技術を移転していくことが重要と考えている。

 

1.国際防災の10年への取り組み

 

1)国際防災の10年推進本部の設置

我が国は、国際防災の10年の主要提案国であり、本10年を契機として、防災分野での国際協力及び国内の災害対策を一層推進するため、1989年5月には、本10年に係る施策について関係行政機関相互の緊密な連携を確保し、総合的かつ効果的に推進する国内委員会として、内閣総理大臣を本部長とする「国際防災の10年推進本部」が国土庁に設置された。

 

2)国際防災の10年への取り組み

国際防災の10年推進本部は1989年11月の第1回会議において、本10年事業を推進するための政府の基本方針を決定した。基本方針では、国際的には、国連等の本10年に関する各種の事業計画に対し積極的な参加、協力等を行うとともに、特に開発途上国における自然災害による被害の軽減に寄与するよう、長期的な展望のもとに、i)技術協力を通じての防災に関する科学及び技術の水準向上及び普及、人材育成、 防災体制整備等に関する支援、ii)災害対策に資するプロジェクトへの支援、iii)国際会議等を通じての我が国の経験や知識の伝達と各国相互の経験や知識の交流の推進、iv)国際緊急援助の充実などの事項を中心として、防災に関する国際協力及び国際交流の推進を図ることとしている。さらに、展示会や講演会の開催など、各種の広報活動を積極的に実施してきている。特に、1994年には、横浜市で国連主催のもと開催された「国際防災10年世界会議」に日本国として積極的に協力を行ったほか、国際防災10年推進本部主催で1990、1991、1992、1993、1995、1996、1997年に国際会議を開催した。

 

2.国際防災協力の現状と今後の方向

 

1)概況

我が国の国際防災協力は、次のように区分される。

     T)研修員の受け入れ、専門家の派遣、開発調査事業等の技術協力

     U)防災関連施設・機材の整備、災害緊急援助に対する無償資金協力

     V)防災関連施設の整備等に対する有償資金協力

     W)国連国際防災の10年事務局等国際機関を通じての協力

     X)国際緊急援助隊の派遣、緊急援助物資の供与

これらの国際防災協力は、我が国の国際協力において重要な位置を占めており、それぞれ充実が図られてきている。

 

2)主要な国際防災協力活動の現状

我が国の主要な国際防災協力活動の現状は、それぞれ以下のとおりである。

 

a)技術協力

我が国は、海外から研修員の受け入れを積極的に行っている。集団的な研修コースとしては、国際協力事業団において、地震工学コースU、防災行政管理者セミナー、気象学コースU、火山学・火山砂防工学コース、河川及びダム工学コースU、地震工学セミナー、緊急災害復旧システムコース、消防行政管理者研修、消火技術研修、海事救難防災コース、などが設けられている。これらの研修は、防災を担当する各省庁の協力を得て実施されている。これらの研修には、1997年度でアジア地域からは17ヵ国から計49名の参加があり、高い評価を受けている。

また、我が国は、防災技術専門家をアジア各国へ派遣し、防災技術の移転による人材の育成に役立てているとともに、各種の防災関係開発調査事業を実施し、防災技術の向上に貢献している。防災関係の開発調査の例としては、ネパールの中南部地域激甚被災地区防災計画調査、タイの道路防災対策調査、フィリピンのマヨン火山地域総合防災計画調査、モルデイヴのマレ島海岸防災計画調査などが挙げられる。

このほか、研修員の受け入れ、専門家の派遣、機材の供与を有機的に組み合わせて実施されるプロジェクト方式技術協力により、技術開発、技術者の養成を通じて、水害、土砂災害、森林火災、山地災害に対処する能力の向上を図っている。プロジェクト方式技術協力の例としては、インドネシア及びネパールの砂防に係る技術センター、インドネシアの森林火災予防計画、中国の国家水害防止総指揮部指揮自動化システムプロジェクト、北京消防訓練センタープロジェクトなどが挙げられる。

 

b)無償資金協力

我が国は、防災に関する無償資金協力を実施しており、パキスタンのミタワン地区流域保全灌漑開発計画、バングラデシュでの多目的サイクロン・シェルター建設計画及び自然災害気象警報改善計画、ネパールの河川護岸計画及び河川防災道路保全機械整備計画、フィリピンのオルモック市洪水対策事業計画、ホンジュラスのチョロマ川洪水対策砂防計画などのプロジェクトが例として挙げられる。

災害緊急援助は人道上の財政援助であり、自然災害の被災者を支援するため、災害時に供与される。日本政府は、1998年度は中国、バングラデシュ、ホンジュラス、ニカラグアなどにおける、洪水、ハリケーンといった自然災害による被害を受けた者に対する支援を行った。

 

c)有償資金協力

有償資金協力は、長期かつ低利の資金を貸し付けるもので、二国間で実施され、防災ODAの中で最も多くの額を占めている。有償資金協力の例としては、フィリピンのピナトゥボ火山被害復旧・再建のための緊急商品借款及び緊急復旧事業、インドネシアのソロ川下流域河川改修事業やメラピ火山及びスメル火山防災事業、パキスタンの洪水災害緊急支援などが挙げられる。

 

d)国連機関等国際機関を通じた協力

我が国は、国連国際防災の10年(IDNDR) 事務局に対して拠出を行ってきており、1999年度には約6千4百万円を拠出した。

また、国際熱帯木材機関等による山火事や山地災害防止に係るプロジェクトへの取り組みに対し資金の拠出、専門家の派遣等を行っている。

 

e)緊急援助

我が国は、1987年に成立した「国際緊急援助隊の派遣に関する法律」に基づいて、海外へ援助隊の派遣を行っており、1999年には、大規模地震による被害を受けた人々の救援のため、トルコ、台湾へ国際緊急援助隊を派遣したほか、緊急物資の供与を行った。

 

3)主要な国際防災協力の現状と今後の方向

我が国の国際防災協力のうち、複数の国を対象とした主要な事業の現状と今後の方向は、以下のとおりである。

 

b)早期予警報システムの整備

各国気象局と、災害防止のために有効な気象データの交換や観測・解析・予報の技術についての情報交換を行っている。また、世界気象機関を通じて、アジア地域における気象情報サービスの要としての役割を担っているほか、日本近海や太平洋域で発生した地震による津波の警報・実況等の情報を相互に交換し、津波来襲に対しての被害軽減に積極的に貢献している。

また、台風に関する情報については、世界気象機関の全球通信システム(GTS)等を通じた情報提供を行っている。さらに、台風の監視や予報に関する関係諸国への技術移転や指導を引き続き行っていく予定である。

 

c)陸域観測技術衛星の研究開発

衛星から、天候、昼夜の関係なく災害発生状況、自然環境の変化等を高精度かつ、迅速に監視する、陸域観測技術衛星(ALOS)の研究開発を行っており、1999年度頃の打ち上げを目ざして、現在基礎的な研究を続けている。

 

d)第三国研修の実施

第三国研修は、我が国技術協力の結果、一定の水準に達した開発途上国において近隣諸国から研修員を集めて研修を実施するものであり、インドネシアの公共事業省水資源総局砂防技術センターでの砂防技術コース等に対して我が国から資金的、技術的協力を行い、近隣諸国への技術移転等を図っている。

 

e)国際総合山岳開発センターへの拠出

ヒンドゥークシュ・ヒマラヤ山岳地域の開発、防災、環境保全等に関する総合的な情報の収集・整理、研修活動を行う機関である国際総合山岳開発センターに対し、1993〜1997年度の間に50万ドルを拠出した。また、衛星を活用した危険地域の地図作成及び地すべり対策等のマニュアル作成のため国際協力事業団の地すべり専門家を派遣した。

 

f)アジア太平洋地域における防災に関する共同研究の推進

1995年10月のアジア太平洋経済協力会議科学技術担当大臣会合において、我が国は地震災害に重点を置いた災害防止の共同研究の促進を提案し、1999年から、多国間型国際共同研究「アジア太平洋地域に適した地震及び津波災害被害軽減技術の開発とその体系化に関する研究」を開始した。

 

h)国際シンポジウム

防災分野における国際協力について議論を行い、防災に関する科学技術の交換や防災対策の取り組み状況についての情報の交換を図るため、公共施設等の防災対策や防災情報の役割、災害の被害の軽減のための調査研究に関する国際シンポジウムを毎年開催している。

 

4)今後の国際防災協力の基本的な考え方

我が国は、これまで防災分野における国際協力を積極的に実施してきた。特に、アジア地域の国々については、我が国と歴史的、経済的、社会的に密接な関係にあり、その地理的、気象的条件などから自然災害に対する脆弱性に共通点を有するとともに、これらの国々においては大規模な自然災害が多発し、ときには経済の発展と社会の安定にとって大きな障害となっていることを踏まえ、我が国の自然災害の経験と蓄積された防災技術を活かして、防災分野における多様な国際協力に取り組んでいるところである。

我が国は、今後とも防災分野における国際協力を引き続き積極的に推進することとしており、その基本的な考え方を述べれば、次のとおりである。

 

a)1994年5月に横浜市で開催された国際防災の10年世界会議で採択された「より安全な世界へ向けての横浜戦略」において地域レベルでの防災協力の重要性が指摘されていることを踏まえ、1998年に活動を開始したアジア防災センターなどの取り組みを活用して、特にアジア地域における防災協力を推進していく。

 

b)我が国は、自然災害の防止、予防、軽減を図るための、アジア諸国における防災体制・制度の整備、防災計画の作成、防災知識の普及・啓蒙、情報通信網の整備、防災科学技術の研究開発、国土保全事業の実施、防災研修等の多様なプロジェクトを推進することとし、技術協力、有償・無償資金協力を通じて二国間の支援を引き続き充実強化する。

 

c)我が国は、災害発生時には、被災国の要請に応じ、国際緊急援助隊の派遣、援助物資の供与及び緊急無償資金協力からなる緊急援助活動を機動的かつ迅速に行い、被害の軽減や被災者の救済に最大限の努力を払う。

 

d)我が国は、アジア地域の各国における防災政策の強化の重要性を考慮し、今後とも防災分野の開発途上国に対する援助を一層充実するよう努める。

 

e)国連経済社会理事会決議を踏まえ、国内委員会たる「国際防災の10年推進本部」については、改名を行い、その体制を維持する。

 


W.普及啓発

災害から自らの身を守るためには、平常時から、一人ひとりが防災に関する意識を高め、防災に関する正しい知識や技術を身につけることが重要である。

このため、政府においては、9月1日を「防災の日」、これを含む8月30日〜9月5日を「防災週間」、1月15日〜21日までを「防災とボランティア週間」と定め、この期間を中心に防災関係機関、地方公共団体等と連携して様々な行事を実施している。

また、地域住民が防災関係機関と一体となって自主的な防災活動を行う、地域住民の連帯意識に基づく自主防災組織が全国で約8万8千組織(1999年4月現在)結成されており、全国の総世帯に対する組織率は約53.3%となっている。